5.教科書用紙の進化と工夫

2024年7月

(1)再生紙の普及

 新聞や雑誌など保存の必要性が少ない印刷物には戦後も「酸性紙」が使われていましたが、現在ではほとんどの印刷物に中性の「中性紙」が使われています。「中性紙」は「酸性紙」に比べて褪色や劣化の進行が遅く、保存性に優れています。
 1990年代になると、環境保護やリサイクルの観点から再生紙が注目されるようになりました。教科書では1999(平成11)年度から本文用紙が全面的に再生紙となりました。

(2)教科書用紙の進化と工夫

①軽量化への挑戦
 2002(平成14)年の「学びのすすめ」(文部科学省)で、学習指導要領は最低基準であると示され「発展的な学習」が認められました。また、「体様のめやす」の自由化によって教科書のページ数が増加し、大判化が進みました。当然、教科書の重量が増加し、児童・生徒の負担増が問題となりました。

教科書ページ数、本文用紙の重さ比率(東京書籍発行の中学校教科書)
%は、平成24年度を100%とした場合の数値。令和3年度のページ数は道徳を除いた合計ページ数。
教科書の判型比較(全発行者の教科書)
 教科書用紙の軽量化は避けられない課題ですが、不透明度や強度は確保しなければいけません。軽量化を実現するために製紙会社と連携して、パルプ配合の最適化や添加剤など薬品の見直しなど努力を重ねました。さらに、試作した用紙は実際の印刷機で厳しくチェックします。また、不測の事態に備え、最低2社で同質の紙を製品化します。多くの課題をクリアして現在の教科書用紙が誕生しました。
用紙の断面比較(顕微鏡写真500倍)
右の写真はパルプ間に空間をつくって密度を下げ、軽量化を図っている。
②学習効果を高める用紙の工夫
・水書用紙 書写(小学校1年・2年)
 小学校1・2年の書写で運筆能力の向上のために導入されました。水を付けた筆で文字が書ける用紙で、数分で乾いて消えるため繰り返し使えます。原理はすりガラスと同じです。用紙の表面に加工が施されていて、水で濡れることで光が下地の紙まで屈折せずに届くようになります。その結果、隠されていた下地の色が見えるようになり、水で書いた文字が浮かび上がってくるのです。
水書用紙『新編あたらしいしょしゃ 1年』
(令和6年度)
・包装(半透明)用紙 算数(小学校5年上・6年)
 小学校5・6年の算数の図形の学習で、合同かどうかを調べたり、対称な図形の特徴を調べたりするのに効果を発揮します。包装用紙として商品化された紙ですが、不透明度が低く、強度も十分でコストパフォーマンスもよいため採用しました。
包装(半透明)用紙『新しい算数 5年上』
(令和2年度)

(3)紙は文明の源泉

 日本の近代製紙業は、渋沢栄一氏が「製紙及び印刷事業は文明の源泉」との信念のもと、1873(明治6)年に王子に抄紙会社を設立したところから始まりました。東京書籍も国定教科書の翻刻発行を通じて製紙業の発展に貢献しました。その後、改良や開発が進み、昨今では、SDGsの観点からも紙製品が見直されています。
 紙は、日本の産業や文化を支え続けています。

(髙石和治)