4.洋紙の発展、劣化と保存
2024年7月
(1)国定教科書は洋紙に印刷
明治時代の初期、国産の洋紙は品質に難があり、輸入洋紙に頼らざるを得ない状況でした。国定教科書以前の教科書は機械漉きの和紙などを用いていました。明治期の半ばになると国産の洋紙の品質改良が進み、設備も整い安定して生産できるようになりました。明治末期には、北海道で王子製紙の苫小牧工場が操業を開始しました*。国定教科書は、スタートから一貫して国産の洋紙を使用し、国内の製紙業の発展に貢献しました。
*王子製紙の苫小牧工場など北海道の施設の一部も、東書文庫と同じ近代化産業遺産に認定されています。
*王子製紙の苫小牧工場など北海道の施設の一部も、東書文庫と同じ近代化産業遺産に認定されています。

王子製紙の北海道苫小牧工場
『尋常小学地理書巻二』1926(大正15)年
『尋常小学地理書巻二』1926(大正15)年
(2)洋紙のメリット・デメリット
洋紙は大型の機械を使うことで連続で大量に生産できます。また、原材料費を安く抑えられるため安価で製造ができます。このことから、明治から大正時代にかけて洋紙の需要は急速に高まっていきました。
しかし、洋紙には課題もありました。洋紙は製造過程で様々な薬品を施します。その一つに、インクの滲みを抑える硫酸アルミニウムがあります。硫酸アルミニウムは時間の経過とともに空気中の水分と反応して硫酸を生じ、紙の原料であるセルロースを分解して、紙を劣化させます。
このような「酸性紙」は、50~100年で崩れてしまうといわれています。東書文庫で保存している資料にも、経年劣化で著しく破損してしまったものがあります。
現在、多くの印刷物には中性(または弱アルカリ性)の「中性紙」が使われています。「中性紙」は「酸性紙」に比べて褪色や劣化の進行が遅く、保存性に優れています。
しかし、洋紙には課題もありました。洋紙は製造過程で様々な薬品を施します。その一つに、インクの滲みを抑える硫酸アルミニウムがあります。硫酸アルミニウムは時間の経過とともに空気中の水分と反応して硫酸を生じ、紙の原料であるセルロースを分解して、紙を劣化させます。
このような「酸性紙」は、50~100年で崩れてしまうといわれています。東書文庫で保存している資料にも、経年劣化で著しく破損してしまったものがあります。
現在、多くの印刷物には中性(または弱アルカリ性)の「中性紙」が使われています。「中性紙」は「酸性紙」に比べて褪色や劣化の進行が遅く、保存性に優れています。
(3)教科書の保存と修理
東書文庫では、書庫や展示室の環境を、文化庁の指針に基づき温度20℃前後、湿度50%前後、照度100ルクス以下に保つよう管理しています。劣化が激しい資料は、保護のために専用の中性紙の箱を作製して保管しています。
また、重要文化財については、2015(平成27)年度から10年計画で、劣化が激しい掛図・掛幅288点の修理と保存箱の作製を文化庁と東京都の補助を受けて進めています。
貴重な資料の保存と公開に務め、劣化を防ぎながら後世に伝えることが東書文庫の使命であると考えています。
また、重要文化財については、2015(平成27)年度から10年計画で、劣化が激しい掛図・掛幅288点の修理と保存箱の作製を文化庁と東京都の補助を受けて進めています。
貴重な資料の保存と公開に務め、劣化を防ぎながら後世に伝えることが東書文庫の使命であると考えています。
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修理前

修理後

地図掛図の修理
『小学地理掛図九州地方(府県別図)』1908(明治41)年
『小学地理掛図九州地方(府県別図)』1908(明治41)年

修理後は資料の形状に合わせた中性紙の保存箱に入れて保管
(東書文庫書庫内)
(東書文庫書庫内)
(髙石和治)