柳田国男の録音テープ


柳田国男


東書文庫には日本の民俗学の創始者といわれ、東京書籍の国語教科書の初代監修者であった柳田国男先生の肉声が残された貴重な録音テープが大事に保管されています。このテープはSONYが「東京通信工業」といっていた時代のパッケージにおさめられ、しかもテープのリールの商標は「SONY TAPE」ではなく「SONI TAPE」と表記されています。 また、この録音テープのベースの素材はなんとクラフト紙です。つまり紙テープに磁気粉を塗り付けたものなのです。しかし、驚くなかれそんな紙製のテープからちゃんと音が出たことです。

録音の日付は昭和28年4月15日と箱に記載されています。これは、当時発行されていた機関誌「小学校・教室の窓」(同年6月発行・臨時増刊号)に『国語教育の古さと新しさ』と題する講演記事として掲載するために収録されたものです。講演の内容は柳田国語の原点ともいうべきもので、国語教育と国の復興にかける熱い思いがあたたかい語り口のなかにもきっぱりと語られています。

しかし、こんな貴重なテープも間違って廃棄物として処理されようとしていたものを「東京通信工業」のパッケージがめずらしいと興味を持った社員に廃棄物の中から拾われたという経緯があります。

ソニー創始者の一人である井深大さんの毎日新聞に連載された回顧談(平成3年9月22日)によると、当時日本にはプラスチックベースのテープは未だ無く素材をなににするか苦心されたそうです。薄くて丈夫な素材として思いついたのがクラフト紙で、盛田さんの従兄弟がおられた関係で本州製紙(現・王子製紙)に特別にマニラ麻100%のクラフト紙を抄造してもらったと語っておられます。録音テープの素材が紙であったとは、IT時代さきがけの苦労をしのばせる所蔵品です。


(鈴木清三)