教科書体


教科書体というのは、教科書につかわれた活字の書体のことです。明治初年に教科書に活字がつかわれたのは、本木昌造が5分5厘(1センチ5ミリ)角ほどの大きさの初号活字をつくり、これをつかって明治3(1870)年に『単語篇』という教科書を作っていますが、書体は新聞につかわれているような明朝体でした。しかし当時、一般につかわれていたのは、筆で書いた文字を木に彫って木版(整版)として印刷したものが大半でした。

昭和8(1933)年に小学校の教科書が大改訂され、小学校1年生の国語教科書 は「サイタ サイタ サクラガ サイタ」という色刷りの教科書が生まれました。小学校3年生用は昭和12(1937)年に発行され、低学年の国定教科書でははじめて活字を採用しました。活字にするにあたって、文字の形をどのようにするかを検討しました。筆の文字と当時の字典につかわれていた字典体(明朝体活字)と、どのように合わせるかが問題でした。結局、筆文字を字典につかわれていた書体(字典体)になるべく合わせるようにしました。したがってこのときから文字の形が変わったものもあります。サンプル4に示した「木、青、間」などがそうです。

この書体は国定教科書、戦後の文部省著作教科書までつかわれましたが、戦後の検定教科書になってからも教科書発行会社では独自に書体をつくって、国定教科書につかわれた書体と似た筆書き書体を引き続き採用してきました。毛筆書体から硬筆書体への変化はありますが基本的にはかわりありません。

「教科書体」ということばは文部省が昭和33(1958)年の「小学校教科書に使用される教科書体活字について」という教科書体統一に関する通達で、文部省がはじめてつかったものです。これは国定教科書以来、小学校国語教科書に使用してきた本文書体を指しています。名前は昭和33年につきましたが誕生は昭和12年のことです。

教科書体の変遷については東書文庫所蔵の教科書を多数利用して編まれた『東京書籍印刷株式会社30年史―教科書製造の変遷―』 (1999.9.20.刊。非売品。東書文庫所蔵)の中に詳しく記されています。

「小学国語読本」巻5 三おたまじゃくし
「小学国語読本」巻5 巻末漢字一覧票
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木、青、間の字形の変化

(板倉雅宣)